かつて経験したことのないほどの労働者不足が起きています。
山形県に限った話ではありませんが、長く続く少子高齢化の影響を受けて、長期的かつ構造的な労働者減少が全国的にこれからも続くと予想されています。
私たちが日常的に使う社会インフラ(道路、水道、電気、通信など)、学校、スーパー
マーケットやコンビニエンスストア、小売店、飲食店、病院、保育施設、介護施設などなど、社会を構成するあらゆる分野から、人手不足の声が聞こえてきます。
山形県が発行している「山形県人口ビジョン令和7年改訂版」によれば、2000年に64万人あまりであった就業人口(実際に働いている人の数)は、2020年には54万人あまりと、20年で10万人減少しました。
少子高齢化だけではなく、労働力の基盤となる生産年齢人口(15~64歳)の若年層、特に15~24歳の年齢層が賃金の高い都市部への転出が起きており、就業人口の減少に大きな影響を与えていることは疑いようもありません。(内閣官房公表「都道府県別の15歳~39歳(総数)の転入・転出の状況」2025)
毎日通勤する会社、移動に使うバスや鉄道、毎日買い物するスーパーマーケットやコンビニエンスストア、病気怪我で訪れる病院、介護が必要な家族のための介護施設、小さな子どもを預かってくれる保育施設、そういった社会の基盤があっという間に崩れそうなほど人手不足は深刻なのです。
私の実家では、両親が二人暮らししていますが、ここ数年で地元のスーパーマーケットが倒産し、徒歩圏内のコンビニエンスストアが大通りに移転し、もっとも近かったドラッグストアも昨年閉店しました。食料品や日用品を買うためには、車で移動せざるを得ず、大変不便になったと漏らしていました。
住みよい街、暮らしやすい社会には、豊かな社会基盤が欠かせません。その社会基盤を支える会社や組織を維持するための労働者を維持・確保することが必要です。
今、山形県の労働者人口は、県内の総人口の減少とともに、急激な減少が続いており、高齢者や女性の就業促進だけではカバーしきれない局面に入りつつあると言われています。特に生産年齢人口と言われる15歳~64歳の減少が顕著で、1950年に136万人のピークを迎えた山形県の人口は、2050年に71万人になると予想されています。(国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和7年推計)」より)
この人口減少は、死亡数が出生数を上回る自然減の問題だけではなく、高齢者中心の社会となることで医療・介護の需要増により働く場所が限定されたり、社会インフラの維持が困難になるなど、これまでの社会構造を大きく変える可能性があります。人口減少と向き合い、その抑制や、都市部一極集中が続く人口流出を減らすための一つの方策として、働きやすい職場、魅力ある職場づくりが求められていると言えます。
労働者人口の減少とともに、大きく取り上げられるようになってきたのが「多様な働き方」です。環境変化にもっとも適応できる会社(社会)が生き残れるとして、大きく注目されています。
では、多様な働き方とはなんでしょう。かつての「フルタイム勤務・無期雇用」といった画一的な働き方で会社が決めた枠組みに合わせて労働者が働く形から、労働者自身が選択する弾力的な労働時間、勤務場所、あるいは勤務する服装まで、会社組織を維持するために会社や社会が個人を尊重し、個人の希望を受け入れるという、会社や社会の寛容さが求められる働き方なのではないかと考えています。
多様な働き方の代表格と言えば、コロナ禍に急激に増えたテレワークが真っ先に挙げられるでしょう。働く場所や、始業時間・終業時間に縛られない働き方は、これからの働き方へ大きな一石を投じました。
他にも、自分で勤務時間を調整できるフレックスタイム制、労働時間をある程度自由に設定できる変形労働時間制、短時間勤務、時差出勤、週休3日制などの勤務時間を弾力的に運用するものや、契約社員、派遣社員、業務委託、フリーランスのような雇用形態によるもの、そして働く場所そのものを増やす兼業・副業制など多様な働き方には様々な種類があります。働き方を選択したり、組み合わせたりすることで、自分の働ける時間、勤務場所、業務内容、契約内容を働く会社とともに作りあげることで、多様な働き方が実現可能となります。
多くの会社は、そこで働く人がいなければ維持できません。労働者人口減少という喫緊の課題に対して、多様な働き方は単なる労働者のニーズという側面を超えて、会社を存続させるための重要な要因となるでしょう。
労働者人口減少に対抗するためのアプローチとして、3つの具体例をご紹介します。
①埋もれていた人材の掘り起こし
フルタイム勤務ができなくても、「在宅なら」「週3日なら」「短時間なら」で働ける人を採用できる働き方を会社の中に作る。また、現に働いている社員のなかでも弾力的な働き方を希望する人の受け皿を作る。育児中・家族の介護をする方、体力に不安のある高齢者などが働ける環境を整えることで、新たな働き手の採用に繋げる。
②「辞めない」環境づくり
妊娠、出産、育児、介護などのライフステージが変わっても働き続けられる制度を作り、離職を防ぐ体制を社内に作る。家庭環境、家族の事情に配慮した配置転換、転勤制度、業務内容の見直しや、労働条件の見直しなどを運用し、働き続けるために何が必要なのかを常に聞き取り、反映する仕組みを作る。
③「外部の力」を借りる(関係人口の創出)
「関係人口」とは、地域に住んでいる「定住人口」でもなく、観光で来た「交流人口」でもない、地域と多様にかかわる人々を指します。会社における「関係人口」とは、他会社や他の会社で働く人、外部の専門家などが関係人口と言えるでしょう。正社員登用が難しい場合でも、副業・兼業人材を活用して、労働力や専門知識を社会全体でシェアする仕組みを作る。事務手続きや、法的な手続きなどを外部専門家などに委託することで、会社としての本業に注力する体制を作る。
先にも述べた通り、人口減少については、構造的な要因も含んでおり、人口を劇的に増やす魔法のような方法はありません。人口減少が緩やかとなる方策を次々と講じながら、住みやすい社会を維持・構築していくことが必要となります。
若者を増やす、女性が働きやすい会社を作るのであれば、これまでの経営者側の意識を変える必要もあります。とりわけ地域や企業における固定的な性別役割分担意識(アンコンシャス・バイアス)を解消することが必要となるでしょう。社会における「家事・育児は女性がやるもの。会社の管理職やリーダーは男性がやるもの」といった古い固定観念から脱却し、女性活躍のための選択肢を設けることは、対策ではなく社会的な義務として認識すべきと思います。
同時に家庭における家事や育児についても「やるべき人がやる」といった過度な役割分担ではなく、その時必要な家事・育児を出来る方がやるというお互いのリソースを弾力的に配分することが必要だと考えます。そのためには男性が「育児参加」という曖昧な家事・育児への関わりではなく、親・家族の義務として家族の在り方も再定義される必要があると思います。
また働き続けたいと考える高齢者のために、働きやすい環境を作ることも必要でしょう。勤務時間や勤務日数を見直したり、業務内容を見直すために、本人の意向をくみ取りながら労働条件を作っていく必要があります。
個人的な印象なので、エビデンス等はありませんが、60歳以上で働いている人のうち「働くことが楽しい」と話す人は、ほとんどが経営者か管理職以上の人です。多くの人が「年金だけでは生活できない」「貯蓄だけではやりたいこともできない」という働くことを選択せざるを得ないという印象があります。それはこれまでの働き方が、60歳や65歳を超えて働くことを想定していなかったことにも起因するのではないかと考えています。それは本人の意向だけではなく、社会全体が「高齢者の働く環境」について意識し、議論することで改善していくべきものでしょう。
冒頭でも引用しましたが、「山形県人口ビジョン」は、お時間があるのであれば、ぜひ目を通してほしい内容です。人口減少という大きな絶望の前に膝をつくのではなく、小さな希望を紡いで未来へつなげる意思にあふれています。
山形県に住む私たちは、住みよい街、暮らしやすい社会の維持や構築のために、ともに考え、ともに悩み、ともに協力することが今まで以上に必要になっていくのではないかと思います。
※参考:<山形県人口ビジョン(令和7年改訂版)>
https://www.pref.yamagata.jp/documents/45696/04_jinnkoubijyon.pdf
令和8年1月寄稿









