男性の育児休業取得促進は、ジェンダー平等の実現や少子化対策など、社会全体にとって重要な課題です。
近年、法改正や企業の取り組みにより、男性の育児休業取得率は着実に上昇しています。しかし、政府目標との大きな開きや、企業規模による格差など、解決すべき課題も残されています。今回は、改めて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
さて、まず初めに、私が関与した事例を一つご紹介して、今回のお話を進めたいと思います。
【中小企業の取り組み事例】
山形県内に本社を置く製造業を営む中小企業、「株式会社ABC(仮称)」では、社長自身の育児休業取得経験を基に、男性社員の育児休業取得を積極的に推進しています。
この会社では、育児休業の権利と制度についての説明会を定期的に開催しています。
また、休業中に業務情報を共有するメールマガジンの配信や、復職後の短時間勤務やフレックスタイムの提供など、キャリア支援と復職プログラムを用意しています。加えて、社長自ら育児休業の経験を共有し、管理職向け研修を実施するなど、職場の理解と文化醸成にも取り組んでいます。この取り組みの結果、同社では男性社員の育児休業取得率が上昇し、社員満足度の向上にもつながりました。
また、家族に優しい企業として地域社会での評価も高まり好循環を生み出しています。
企業にとって、どういった意識で望むのかはとても重要になります。
つまり、目的意識を持ち、目標に向かって社内の制度改革や、運用を推進していくことが、結果的に企業価値を高め、利潤の循環を創出することにつながった、良い取り組みだったと思います。
次に、こうした取り組みの背景や、意義について改めて見てみましょう。
【男性の育児休業取得率の推移】
○2000年代の低迷と上昇の兆し
2000年代初頭、男性の育児休業取得率(厚生労働省 雇用均等基本調査より。以下同じ)は1%台と極めて低い水準にありました。2005年には0.50%、2010年には1.38%と、徐々に上昇し始めました。この間、育児・介護休業法の改正や、男性の家事・育児参加を促す広報活動などが行われ、社会の意識改革が進められました。
○2010年代の上昇と法改正の影響
2010年代に入ると、男性の育児休業取得率は一層の上昇傾向を見せました。2015年には2.65%、2019年には7.48%と、着実に伸びています。この背景には、2010年の育児・介護休業法改正による取得要件の緩和や、2016年の改正によるパタハラ※1防止措置を義務化などが影響しています。
○2020年代の大幅な上昇と政府目標
2020年代に入ると、男性の育児休業取得率は大きく上昇しました。2022年度は17.13%と過去最高を記録し、当初政府が2025年までに目標とした30%に着実に近づいていると言えます。この背景には、2022年の育児・介護休業法改正による「産後パパ育休」の新設や、企業への取得促進義務化などがあります。一方、2023年4月期の上場企業における男性の育児休業取得率は24.4%※2と報告されています。企業規模による格差が存在することがわかります。
【男性の育児休業取得を後押しする動き】
○法改正と企業への義務付け
2022年10月から施行された改正育児・介護休業法では、「産後パパ育休」が新設され、子の出生後8週間以内に4週間までの育児休業が可能になりました。また、2023年4月からは、従業員1,000人超の企業に男性の育児休業取得率の公表が義務付け※3られました。この公表義務化により、企業の取り組みが可視化され、育休取得率の向上が期待されています。実際、公表した企業の3割以上で、社内の取得率増加や職場の雰囲気改善などの効果が見られたとの報告※4があります。
○企業の取り組みと効果
男性の育児休業取得を推進する企業では、さまざまな取り組みが行われています。
育休取得者の事例を社内外に発信したり、育休に関する研修を実施したりするなどの施策が効果的とされています。
こうした取り組みを行った企業では、男性の育児休業取得率が大幅に上昇した事例もあります。
企業にとってのメリットとしては、従業員の帰属意識の向上による離職率の低下や、企業イメージの向上、業務の効率化などが期待できます。
○男性の育児休業取得が目指す社会
男性の育児休業取得は、個人、企業、社会全体にとって多くのメリットがあります。
男性が育児に主体的に関わることで、ジェンダー平等の推進や少子化対策、女性の就労継続が期待できます。実際、夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業割合や第二子以降の出生割合が高くなるという調査結果※5もあります。また、男性自身の人生観や価値観の変化をもたらし、ワーク・ライフ・バランスの実現にもつながります。育児に参加することで、新しいコミュニティーを獲得したり、時間管理能力が向上したりするなど、男性自身の幸せにも寄与します。
○アンコンシャスバイアスの影響
男性の育児休業取得を阻む要因の一つに、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が挙げられます。多くの職場では、男性が育児休業を取得することに対する無意識の抵抗感が存在します。
例えば、「男性は仕事を優先すべき」「育児は女性の役割」といった固定観念が根強く残っていることが、男性の育児休業取得を妨げる要因となっています。
このようなバイアスを解消するためには、職場全体での意識改革が必要です。
企業は、育児休業の重要性を全従業員に周知し、男性が育児休業を取得しやすい環境を整えることが求められます。
○政府目標の引き上げ
現在、日本政府は、男性の育児休業取得率に対して以下の目標※6を掲げています。
2025年までに50%
2030年までに85%
この目標は、少子化対策やジェンダー平等の推進に向けた強い意志の表れです。
政府は、企業や労働者をサポートするための方針も打ち出しており、育休取得者や時短勤務者の業務を代替する従業員に手当を支給する中小企業対象の補助金を拡充するなどの施策を講じています。
【まとめ】
結論から言えば、男性の育児休業取得は、個人、企業、社会全体にとって多くのメリットがあります。法改正や企業の取り組みを通じて、取得率は着実に上昇していますが、収入面や職場環境の整備など、解決すべき課題も残されています。
政府、企業、国民一人ひとりが、この課題に向き合い、男性の育児休業取得促進に取り組むことが重要です。
男性が育児に主体的に関わることで、ジェンダー平等の推進や少子化対策、ひいては男性自身の人生の豊かさにもつながるのです。
参考
※1 パタニティハラスメントの略。男性が育児休業や育児目的の制度を利用する際、または実際に利用した際に、職場で嫌がらせや不利益な扱いを受けること
※2 積水ハウス株式会社 男性育休白書2023
※3 2024年に改正され、2025年4月1日からは従業員300人超の企業に拡大される
※4 厚生労働省 令和5年度男性の育児休業取得率の公表状況調査(速報値)
※5 内閣官房こども家庭庁設立準備室 資料5:こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識
※6 政府 こども未来戦略(令和5年12月)
令和6年6月寄稿