社労士コラム

女性活躍推進に必要なことは、「ポジション」と「賃金」の再配分 営業職やデジタル人材での女性活用がカギ

特定社会保険労務士
高橋 聡子 氏
性別によらず労働者が能力を発揮したいと思える職場環境をつくり、その能力に見あった「ポジション」と「賃金」を正しく分配することで、企業は投資の成果としての果実(利益)を得ることができます。

「うちの会社は女性が活躍しているから。」と経営者が得意げに話している場面に遭遇することがあります。そこで、「女性の管理職はいますか?」との質問に対し、「女性の管理職はいないが、パートの女性社員が多く働いていますよ。」と返答されます。「女性パート活用=女性活躍推進」と認識している経営者が少なからずいます。しかし、人材不足の日本で、女性の労働力を活用するのは当然のことであり、女性活躍推進の本質ではありません。

女性は仕事と育児の両立のため、フルタイムの正社員を継続することが困難になり、短時間勤務やパート労働者へ移行します。その結果、フルタイムの正社員を前提につくられている評価制度の対象外となり、管理職として働き盛りの時期(30代、40代)が子育て期とかぶるため、キャリアが中断され能力を評価される機会を失っています。
共働き世帯の増加により、男性の育児参加や家事分担も当たり前という風潮はありますが、2021年総務省の社会生活基本調査「6歳未満の子をもつ世帯の1日の家事関連時間(育児含む)」では、共働き世帯の夫は1時間55分・妻は6時間33分、妻が専業主婦の夫は1時間47分・妻は9時間24分、という統計結果があります。驚いたのは、共働き世帯の夫の家事関連時間は、妻が専業主婦の場合と比較して8分しか増えていないことです。

この結果から、日本では性別的役割分担意識が根強く残っていて、実際は女性が「働きやすい」状況とはいえません。例えば、子供が病気になって仕事を中断して保育所に迎えにいくことや突然仕事を休む必要があるときに、「急に仕事を抜け出せない。」「今日は大事な会議があるから休めない。」という発言は、男性側に偏っているように思います。
共働きをしていて、仕事の責任を果たしたい気持ちは女性も同じですが、家庭の事情で仕事を中断することが女性側に偏ってしまうと仕事の成果はなかなかあがりません。そして仕事の責任を果たせない不安から、パート労働者として時間を切り売りすることを選びます。

つまり、子育て中の女性にとって「働きやすい」職場とは、仕事の難易度や責任のハードルを下げて、急な子供の体調不良などのアクシデントに見舞われて出社ができなくなることがあっても、評価を落とさず安定して働ける職場ということです。このような「働きやすい」職場では、女性はキャリアアップをあきらめるしかなく、男女の所得格差を広げる要因ともなり、女性活躍推進を遅らせてしまう側面もあります。これからは、育児休業と併せて子の看護休暇制度等の両立支援制度を、男性が積極的に利用できるように企業も意識を変える必要があります。

「女性活躍推進」の本質は、ブランクや短時間勤務を経ても、女性が交渉や決定の「ポジション」につくことができ、勤続年数にとらわれず能力に見合った「賃金」が支払われることです。そのためには、これまでの男性優位型の「ポジション」と「賃金」を再分配し、交渉や決定の場に女性を抜擢していく必要があります。

次に、女性の特性を活かした「ポジション」に目を向けてみましょう。
ここでいう「ポジション」とは、単純にポテンシャルが高い女性をいきなり管理職に抜擢し、交渉と決定の場に紅一点で座らせることではありません。将来的に女性の管理職を増やすために、まずは評価される職務に女性が配置されることをいいます。そういった「ポジション」に女性が多く配置されれば、評価される機会が与えられ、能力に見合った「賃金」が分配されます。その結果、女性管理職が自然と増え、男女の所得格差是正につながると考えます。

例えば、営業職。営業職は、残業や出張も多いといったイメージがあるため、子育て中の女性の求職が圧倒的に少ない職種です。しかし、周囲に対して気配りができること、コミュニケーションを通して他者と気持ちを共有すること、小まめな「ほう・れん・そう(報告・連絡・相談)」ができることなど、営業職で活躍できるポテンシャルが備わっている女性は多くいます。コロナで一気にIT化が進み、これまで無駄な会議や出張が多かったことに気づかされました。ビジネスチャットやWEB会議、クラウドシステムを活用した営業スタイルを構築できれば、残業や出張をしなくても能力を発揮できます。営業職は、売上という評価基準が明確で、男女の賃金格差がおこらない職種であるといえます。

また、デジタル分野における女性活躍も大いに期待されるところです。
特に、企業のバックオフィス業務の事務職(営業事務・経理事務・総務事務)は女性が多いので、まずはそういった部門からDXに向けたデジタル人材を育ててはどうでしょうか。ITベンダーとの交渉、新システムの決定と導入作業、運用のための社内教育など一貫して推進していきます。企業のDXにより短時間勤務やテレワークであっても効率的に成果がだせるような「働きやすい」職場に変えていけます。

事務職は女性の人気職種ですが、企業の評価としては、直接売上に貢献せず生産性が低いと考えられるため、長年事務職を務めても賃金の上昇は期待できません。しかし、DXにより企業の生産性があがれば、業績に直接貢献できるため評価を得ることができます。
私が担当する顧問先の事例をあげますと、社員の勤怠管理や残業を自動集計できるクラウドソフトの導入において、運用や社員への周知、教育を顧問先の事務職が担当しました。そして、勤怠管理ソフトの導入が従業員の働き方を見直すきっかけとなり、残業が削減される効果が現れました。経営者は、DXを推進した事務職の評価基準を労働生産性に軸を置くように改め、事務職の賃金を昇給させるということがありました。

DXは、女性がデジタル人材として中心になって取り組めば、正しい方向へ女性活躍推進の舵をきることができます。
このように、業績に直接貢献できる「ポジション」を通じて、交渉や決定の場を数多く経験しながら管理職としての素養が身についてきます。特に中小企業は、管理職の教育にお金と時間を投資することが難しいため、このような方法が有効であると考えます。

企業にとって「人」は投資であり、人材不足の状況においては最も重要な投資ともいえます 。性別によらず労働者が能力を発揮したいと思える職場環境をつくり、その能力に見あった「ポジション」と「賃金」を正しく分配することで、企業は投資の成果としての果実(利益)を得ることができます。女性活躍推進が進んでいない企業は、現状の「ポジション」と「賃金」を見つめなおし、再分配する必要があります。

※DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
 デジタル化 
●ITツールの導入 
●デジタル技術の活用
 トランスフォーメーション(変化) 
●業務変革、働き方改革
●ビジネスモデルの変革
= DX


取組事例

令和5年7月寄稿