社労士コラム

令和6年改正の育児・介護休業法への備え

社会保険労務士
我妻 仁 氏
少子高齢化の急速な進展による労働力の減少を受け、人材確保・定着が企業にとって大きな課題になっている中で、従業員のワーク・ライフ・バランスに配慮し、育児・介護の両立支援制度が充実している企業には、従業員の確保、定着、モチベーションの向上、さらには業績に対してもプラスの影響があります。

育児・介護休業法は、従業員が育児や介護のために仕事を辞めざるを得ないといったケースが起こらないよう、「育児休業」、「介護休業」、「短時間勤務」といった様々な措置を事業主に義務づけることにより、働く人たちの仕事と家庭の両立を支援することを目的とした法律です。

最近では、令和4年10月に男性の育児休業取得促進を図るため、「出生時育児休業(産後パパ休暇)」が新たに制度化されたほか、「育児休業の分割取得」ができるようになるなど、両立支援制度の拡充が図られてきました。
また、令和6年5月には育児・介護休業法等の改正法(以下、改正法)が成立し、令和7年4月1日及び令和7年10月1日に施行されます。

今回の改正の柱は、次の3点です。
1. 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
2. 育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
3. 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
以下、改正内容を説明し、最後に企業が対応すべき事項を提示します。

改正の柱1
子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

1-① 柔軟な働き方を実現するための措置が義務化【令和7年10月1日施行】
改正法では、3歳以上小学校入学前の子を育てる労働者が柔軟な働き方を実現するための制度を、次の ア. から オ. の5つの中から2つ以上を選択して措置し、労働者がその措置の中から1つを選択して利用できるようにすることが事業主に義務づけられました。
ア. 始業時刻等の変更(始業・終業時刻の繰上繰下制度、フレックスタイム制の導入)
イ. テレワーク(月10日の在宅勤務/時間単位を可とする)
ウ. 短時間勤務制度(1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むものとする)
エ. 新たな休暇の付与(1年につき10日休暇を付与/時間単位を可とする)
オ. 働きながら子を養育しやすくするための措置(保育施設の設置運営等)
また、導入した措置内容については、対象労働者の子が3歳の誕生日を迎える1か月前までの1年間の間に、書面交付や面談等により、個別の周知と意向確認を行うことも義務づけられました。
1-② 所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲の拡大【令和7年4月1日施行】
現行法では、3歳に達するまでの子を養育する労働者は、1回につき1か月以上1年以内の期間を定めて事業主に請求すれば、その期間、所定労働時間を超える労働(=残業)が免除されますが、改正法では、残業免除の対象が、小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大されます。
1-③ 子の看護休暇の取得対象者、取得事由の拡大【令和7年4月1日施行】
子の看護休暇は、負傷し、または疾病にかかった子の世話や看護を行う労働者に付与される休暇で、現行法では小学校就学前の子を養育する労働者が1年度当たり5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)を限度に、年次有給休暇とは別に取得することができます。改正法では、対象者が「小学校3年修了までの子を養育する労働者」に拡大されるとともに、現在の取得理由である「病気」「怪我」「予防接種」「健康診断」に加え、保育園、学校等の「臨時休業」「学級閉鎖」「教育若しくは保育に係る行事(入園式、卒園式、入学式等)への参加」も追加されました。また、名称も「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更されます。
1-④ 育児のためのテレワーク導入が努力義務化【令和7年4月1日施行】
3歳未満の子を養育する育児休業中でない労働者に、在宅勤務等(テレワーク)の措置を講ずることが事業主の努力義務となります。
1-⑤ 仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化【令和7年10月1日施行】
労働者が事業主に対し、妊娠・出産などを申し出た場合や子が3歳になる前に、事業主は労働者に対して、仕事と育児の両立に関する個別の意向を聴取(面談、書面交付)し、その意向に配慮することが義務づけられます。

改正の柱2
育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化

2-① 育休取得状況の公表義務の拡大【令和7年4月1日施行】
現行法では、常時雇用する労働者の数が1,000人を超える事業主に、毎年1回以上の育児休業取得状況の公表が義務づけられていますが、改正法では、公表義務の対象が常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主まで拡大されます。なお、公表は、次の ア. または イ. のいずれかを選択し、自社のホームページや「両立支援のひろば」で行わなければなりません。
ア. 男性の育児休業等の取得率
イ. 男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率
2-② 一般事業主行動計画策定時に数値目標の設定が義務化【令和7年4月1日施行】
現行法では、従業員数100人超の企業は、一般事業主行動計画を策定して労働局に届け出ることが義務務づけけられていますが、改正法では、この一般事業主行動計画策定時に 次の2つが新たに義務づけられました。(従業員数100人以下の企業は、努力義務)
ア. 計画策定時に、自社の男性労働者の育児休業等の取得率及び時間外・休日労働時間の状況(フルタイム労働者1人当たりの各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数等)を把握し、課題の分析を行うこと
イ. ア. で把握した自社の状況を分析し、育児休業等の取得状況や労働時間の状況に関する数値目標を設定すること

改正の柱3
介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

3-① 個別周知・意向確認・情報提供・研修等の義務化【令和7年4月1日施行】
労働者が家族の介護に直面した旨を事業主に申し出た際に、労働者に対して面談・書面交付等により介護休業や介護短時間勤務等の介護両立支援制度等を説明し、制度利用の意向があるかどうかを確認することが事業主に義務づけられます。
3-② 介護に直面する前の早期の情報提供の義務化【令和7年4月1日施行】
40歳に達した労働者に対して、介護休業、介護両立支援制度や介護給付金制度等の情報提供を行うことが事業主に義務づけられます。
3-③ 介護休業等を利用しやすい雇用環境の整備が義務化【令和7年4月1日施行】
介護休業の申出が円滑に行われるようにするため、雇用環境整備(「研修の実施」または「相談体制の整備」等)の措置を講ずることが事業主に義務づけられます。
3-④ 家族を介護する労働者にテレワーク選択を努力義務化【令和7年4月1日施行】
要介護状態にある家族を介護する労働者が、就業しながら介護することを容易にするため、労働者の申出に基づく在宅勤務等(テレワーク)の措置を講ずることが事業主の努力義務となります。
3-⑤ 介護休暇を取得できる対象者の拡大【令和7年4月1日施行】
現行法では、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定で介護休暇の取得の対象外とすることができますが、改正法ではその仕組みが廃止され、入社したばかりの労働者であっても、介護休暇の取得が可能となります。

企業が取り組むべきこと
ステップ1
●自社の「現在の就業規則(育児・介護休業規程等)」と「育児・介護の両立支援制度」を再確認する。
●育児休業や子の看護等休暇を取得する従業員の増加や短時間勤務等の両立支援制度の利が増加することに備え、業務分担や人員配置を再検討する。
ステップ2
●改正法によって義務化される内容を正しく理解し、自社の制度や就業規則(育児・介護休業規程等)が法に適合するよう変更案を作成する。
●改正法を上回る両立支援制度の導入が自社で可能かどうかを検討する。
例えば
1)「子の看護等休暇」や「介護休暇」を有給とする。
2)「子の看護等休暇」の利用を「小学校卒業まで」に延長する。
ステップ3
●管理職を対象に、改正法の内容、自社の対応内容について研修を実施する。
●従業員に新制度や拡充された制度について周知徹底を図る。
ステップ4
●就業規則の変更手続き(労働者代表の意見聴取、労働基準監督署への届出)を行う。

まとめ
少子高齢化の急速な進展による労働力の減少を受け、人材確保・定着が企業にとって大きな課題になっている中で、従業員のワーク・ライフ・バランスに配慮し、育児・介護の両立支援制度が充実している企業には、従業員の確保、定着、モチベーションの向上、さらには業績に対してもプラスの影響があります。
今回の法改正に適切に対応し、自社の従業員がより働きやすく、働き続けられる職場環境への改革を目指していただいきたいと思います。

参考
制度改正全般について
厚生労働省
●育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要
●育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正のポイント

令和6年10月寄稿