企業インタビュー
尾花沢市

株式会社尾花沢タクシー

先駆的な取組で業界の魅力向上へ
代表取締役
渡会 友補 氏

<会社概要>
〒999-4228 尾花沢市上町六丁目1-23
電 話:0237-53-8855
設 立:昭和51年7月
社員数:35名(男 25名 女 10名)
令和7年10月1日現在

会社の概要について教えてください。


地域に密着したタクシー会社として創業49年を迎え、タクシー事業だけでなく、観光タクシーや介護タクシー、運転代行など多岐にわたるサービスで地域の皆様をサポートしております。豊富な知識を持つドライバーが多数在籍しており、「おもてなし」の気持ちを大切に、安全安心で丁寧なサービスの提供を使命としています。

働きやすい職場づくりへは、どのように取り組まれていますか。

国土交通省が創設した「働きやすい職場認証制度(正式名称:運転者職場環境良好度認証制度)」を申請し、今年二つ星を取得しました。労働時間の管理や人材の育成などの項目が評価対象なのですが、認定というような形で取組が「見える化」されるのは嬉しいです。
弊社では女性ドライバーも活躍していますが、お母さん勤務シフトとして、朝夕の保育園の送り迎えに支障が出ないように短時間勤務の方もいます。こちらがお願いする分の仕事をこなしてもらえれば、それ以外は融通が利きますので、個人の希望に応じて柔軟に働くことができるんだというように業界のイメージを変えていきたいです。

これからさらに取り組みたいことはありますか。

東根市で新しい営業所の立ち上げを行っているのですが、私はそこを働きやすさに特化した営業所にしたいと考えています。タクシードライバーは歩合制が一般的ですが、そこで働いてくれるドライバーには固定給を支払うつもりです。勤務時間もなるべく8時間くらいになるように、他の産業と同じような働き方に近づけていきたいと考えています。
併せて、週休3日制も導入するつもりです。勤務時間の最低限の管理は会社が行いますので、ドライバーの希望に合わせて一週間のうち好きな時に休んでもらえるような体制を構築します。他の業界では土日休みが一般的ですから、タクシードライバーの中には家族と休みが合わないという悩みがあったりもします。そこで、東根営業所は思い切って日曜日を休みにしようと考えています。家族との時間もとれるようにしないと、なかなか若いドライバーが入ってきてくれません。若い人に選ばれるためには、これくらいの取組が必要だと考えています。
また、東根営業所にはドライバーと車両だけを配置して、配車オペレーターや事務の担当者を本社に集約することで省コスト化を図ります。少しでも社員の賃金に還元できるように、工夫できるところから取り組んでいきたいです。
本社にはこれまでの蓄積や慣習があるので、働き方を大きく変えることはすぐには難しいですが、東根営業所のようにゼロから作り上げる際には大胆な取組ができますし、上手くいったものを本社に取り入れればいいと思っているので、まずは前向きに色々なことに挑戦したいです。

カスタマーハラスメントに対する対処方針を、県内のタクシー会社でいち早く策定されましたが、きっかけや狙いを教えてください。

この会社で働いてくれているドライバーのことを守りたいというのが最も大きな理由です。弊社のドライバーは非常に仕事熱心で優秀だと自負しています。しかし、どれだけ一生懸命仕事をしていてもトラブルが起こってしまうことがあります。タクシーの中は一対一の状況が多くなりますので、そこでトラブルが起こってしまうとドライバーも非常に怖い思いをします。そうしたことをきっかけに離職するというのもあり得ない話ではありません。どの業界にも言えることですが、働き手が不足している中で、そのような形で優秀なドライバーを失うのは大きな損失です。トラブルがそれほど頻繁に起こるというわけではありませんが、何かあったときには会社がドライバーのことを守るという姿勢を示さなければ、この仕事が選ばれなくなるという危機感がありました。
業界内でカスハラへの対応を検討しようという機運が全国的にありましたので、先駆的に取組を行っていた東京都の会社や、宮城、新潟といった隣県の会社のものを参考にしながら、就業規則の整備を進めました。
業界全体に浸透させる意味も込めて山形県ハイヤー協会の会長である八千代交通の石川社長にもお声がけして、八千代交通さんと共同策定の形で、令和7年4月1日に公表しました。

他社との共同配車システムについて教えてください。

弊社では、2年前から同業他社と連携した共同配車システムを導入しています。県外の他社への配車依頼を弊社のオペレーターが対応し、配車などの対応を行っています。現在は東京の伊豆大島、石川県、秋田県のタクシー会社と提携しています。まったく土地勘のない場所の対応ということで最初は苦労もありましたが、若手のオペレーター達が一生懸命勉強してくれたおかげで、今ではスムーズに案内できるようになりました。
提携先の会社では、電話番を常時配置しなくてよくなるので経費の削減になりますし、こちらにとっても収入に繋がりますので、どちらにもメリットが大きい仕組みです。私たちは県内で先駆けて導入しており、これまでの経験もありますので、県内の他のタクシー会社とも助け合えるのではないかと考えています。
かつてはタクシー会社同士でライバルのような感覚がありましたが、今はそうではありません。こうした共同配車の仕組みをいかすことで、特に地方のタクシー会社ほど業務効率化が進むと思いますので、さらに多くの会社と関わりを広げていくことで、社員の収入増に繋げて業界の魅力を高めていきたいと考えています。

人材確保の工夫について教えてください。

採用にあたっては、これまでハローワークへの求人が主でしたが、応募も少なく若い人もあまりいませんでした。そこで、有料の求人サイトを活用するようになり、YouTubeやTikTokといったSNSの動画投稿の取組も始めました。そうすると転職活動中の方などに見つけてもらえるようになり、より良い条件を求める意欲的な方からも応募いただけるようになってきました。また、先ほどお話ししたカスハラへの取組から興味を持ってくれた方もいるようで、相乗効果が生まれ始めているかもしれません。

ドライバーのスキルアップについては、いかがですか。

弊社では、私たちにしかできない「おもてなし」をご提供できるように、ドライバー向けの対応マニュアルを作成しています。どのドライバーが運転する車でも、常にお客様に満足してもらえるように研修を行っています。単に目的地に送り届けるだけではなく、「このタクシー会社を使いたい」と思っていただけるように、利用者目線でのサービスにこだわっています。
山形の観光知識や接遇に関する研修を受講し認定試験に合格した「山形おもてなしドライバー」も多数在籍しています。

日本版ライドシェアを導入することになった経緯を教えてください。

銀山温泉への注目度が年々高まり、観光客が急増したことに対応するためです。特に冬期間に爆発的な需要が生まれるわけですが、その期間のためだけにドライバーの数を増やすのは経営的に難しい側面があるので、日本版ライドシェアの制度を活用して外部の方の力を借りる必要が出てきました。
尾花沢市はスイカの一大産地ですのでスイカ農家の方が多くいらっしゃいます。農家の方は冬のお仕事がないという話もお聞きしており、相互に協力することで地域の産業にもプラスになると考えて、農家の方にご協力をお願いしました。弊社の看板を背負って走ってもらうことになるので、面接などでお任せできる方を見つけていきました。
私たちも通常業務をこなしているとドライバーが不足する時間帯がどうしても出てきますので、冬の1日に2往復程度であっても農家の方に車を出していただけると非常に助かりました。お返しと言ってはなんですが、夏のスイカの繁忙期に我が社の社員が農家さんの手伝いに行ったりもしました。私も半日だけお手伝いに行きましたが、あまりに暑くて本当に大変でしたね(笑)。
自社のドライバーの所得を上げることが大切なので通年というわけにはいかないですが、今後も冬の期間はこの制度を活用するつもりです。利用するお客様は観光客がほとんどで外国の方も多いですが、アプリを活用して配車し、料金も事前計算なので、ここまで大きなトラブルなく運用できています。

※日本版ライドシェア
タクシー会社の管理のもとで一般のドライバーが自家用車などを使って有料で人を運ぶサービス。国土交通省により令和6年11月から実施を許可されました。

今後の目標を聞かせてください。

私たちの仕事は一対一でお客様にサービスを提供するので、直接「ありがとう」と言ってもらえることが多いですし、スクールバスの運行などを通じて地域の役に立っている実感も持てます。やりがいのある仕事ですので、男性も女性も関係なく「ドライバーはかっこいい」と思ってもらえるような環境にしていきたいです。
タクシードライバーと聞くと四六時中車の中にいて拘束時間も長いイメージがありますが、実際は時間に融通が利きやすいところがあるので、よく言われるワーク・ライフ・バランスにも合っている業種だと思っています。子育てや親の介護といった事情を抱えた社員も多いので、そうした人に対して会社としてやれることは最大限やってあげたいし、この会社で働いてよかったと思ってもらいたいです。タクシー業界の考え方に囚われず、労働時間や休みの数、所得などを他の産業も参考にしながら改善していきたいと考えています。
これまで通り安全運転とおもてなしが行き届いたサービスを提供することはもちろんですが、タクシー業界の魅力を高めていって多くの人に働きたいと思ってもらえるようにしていきたいです。

【認定関係】運転者職場環境優良度認証制度「二つ星」

株式会社尾花沢タクシーホームページ https://obanazawataxi.net

取材:令和7年10月