※アビリンピックとは、障がいのある方が日頃から培った技能を競う大会です。平成25年は千葉県で開催され、24種目325名の選手が技能を競い合いました。
平成28年秋には、技能五輪全国大会・全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)を山形県で開催します。
DTPとは、「デスクトップパブリッシング」の略称で、イラストレーションとフォトショップという2つのコンピューターソフトを使い、3時間で広告物を作る競技です。1人1台のパソコンで作業を行いますが、手の不自由な方はトラックボールというマウスを使うなど、それぞれの障がいに応じた環境になっています。
今回は、「写真家・緑川洋一さんの写真展を告知するチラシの作成」が課題でした。与えられた写真5点の中から何点か選び、決められたタイトルを使用して、チラシをデザインしていきます。ロゴや会場地図などは自分で作り直さなければならないので、同じ素材を使っても、人によって全く異なるものができるのがこの競技の面白いところです。
緑川さんの写真は、とても色彩が鮮やかで独特な個性があります。大会では海の写真が多かったので、波のようなデザインにしました。全国大会前の練習で、あまりごちゃごちゃし過ぎるのも良くないと学んでいたので、文字の大きさで強弱をつけて、極力シンプルになるよう心掛けました。
イメージが固まるまではとても悩みました。与えられた写真が独特なので、今まで勉強してきたデザインになかなか当てはめることができませんでした。しかし、制限時間もあり急がなくてはならなかったので、大体5分-10分で、デッサン用のメモ紙に大まかなデザインを書いて、あとは実際に作りながら調整していきました。
まずは、3時間という時間内にチラシを完成させるスピードが必要とされます。私は10分前くらいに終えました。1位の方も、同じくらいに終わったと言っていました。
デザインの面では、メリハリをつけて人の目を引く、広告内容の主題を際立たせ、「行ってみたい」と思わせるようなチラシになっていなければなりません。また、写真や文字の配置、色、形、大きさにしても、どういう意図があるのか、感覚的に並べるのではなく意味を持たせることが大切になると、会社の人に教えていただいていました。
開会式は技能五輪全国大会と合同で行われました。映像や音楽を取り入れ、会場が一体となるような演出には、鳥肌がたつような感動と興奮をおぼえました。開会式後の会場下見の際は、競技で使用するパソコンの操作環境やソフトの確認について、審査員の方も笑ってしまうほどたくさん質問をして、少しでもわからないことをなくすよう努めました。
競技当日は、午後から競技開始だったので、午前中は山形県の他の選手の応援をしたり、協賛企業のブースを見学したりしながら過ごしました。
DTPには、21人が競技に参加し、みなさんの緊張が伝わってくるほどピリピリした雰囲気でした。初めての全国大会ということもあって、不安でしたし緊張もしました。しかし、チラシのデザインをするなかで「これはおかしいかな」と笑ってしまうこともあり、意外と冷静な面もあったと思います。
そもそも、DTP種目は県大会の直前から勉強をはじめたので、平成24年度に開催された県大会でも優勝するとは思っていませんでした。それゆえ、全国大会に出場を果たし、「貴重な全国大会に参加できて嬉しい」という思いと、今までたくさんの方に教えていただいたり、応援していただいたりしたので「ありがたいな、頑張らなきゃ」という気持ちがありました。そのため、前向きに楽しんで競技に臨むことができたと思います。
私は、いつも何にでも緊張してしまうので、どんなことでも緊張しないで楽しめるようになることを目標としてきました。大きい会場に臆することなく、その目標を達成できた事が一番嬉しかったですし、自信にもなりました。結果として銀賞を受賞することができ、信じられない気持ちでしたが、最高の気分でした。
また、障がいのある方の技能競技大会と言っても、一般企業でプロとして働いておられる方が多く、レベルの高さを感じました。そして、どの選手も全国大会に対する強い思いがあり、努力を重ね出場されていることが伝わってきました。
全国大会の前には県大会があるのですが、コロニー協会福祉工場では、働き始めて2-3年になると、上司からDTP種目の県大会出場の話があります。私の場合は、県大会の半年前に、課長から出てみないかというお話がありました。しかし、声をかけられても出場するかは自分次第です。いつもの仕事とは違う分野で大変そうだとは思いましたが、職場の先輩方が県大会に出場するのを間近に見ていて、いつかは挑戦してみたいなと思っていましたし、自分の力をはかれる場なので、出場を決意しました。
結果は優勝し、全国大会に行く切符を手にしました。しかし、県大会は何回も出場してやっと優勝するものだと聞いていましたので、まさか初出場で優勝できるとは思ってもみませんでした。
いいえ、デザインの勉強をしたことはありませんでした。仕事も、記念誌や会報などの冊子を作成する部署に所属していました。きっちり計算されて体裁が決められたものに文字をあてはめる作業などが多く、DTP種目のように自分でイメージを膨らませ自由にデザインをして製品を作っていく作業ではありませんでした。
全国大会前には「緑川洋一氏の写真展のチラシを作る」ということしか公表されておらず、実際にどの写真が使われるか分からなかったので、自分で写真などの素材を用意し、本やネットを見ながら真似て作るところから始めました。しかし、練習を始めたころは全くデザインのイメージも沸かず、本来3時間で仕上げるものに2日も費やしていました。
「人の倍は練習しなければ」と思い、仕事の合間や就業時間を終えてから2時間ほど練習を行い、全国大会前の2ヶ月間で50種類のチラシを作りました。毎日集中してパソコンに向かっていたせいか、肩や肩甲骨に今までにない痛みが走って、病院に通ったこともありました。
それでも何枚も作るうちに、チラシ完成までのスピードも上がりましたし、今までにないものを作りたいと思うようになり、インパクトのあるデザインにも挑戦するなど、デザインのバリエーションも増えていきました。
練習にあたっては、職場のデザインチームの方や先輩に、今まで触れてこなかったレイアウトの“いろは”をはじめ、たくさんの事を学びました。貴重な時間を割いて教えてくださった会社の人たちには、本当に感謝しています。デザインに関しては、基礎も自信もありませんでしたが、いつも励まし支えてくれる職場の方や家族、友人のことを思ったときに、「全国大会では優勝したい」と思うようになりました。
また、全国大会前はプライベートでも様々なことに挑戦していました。
特に印象に残っているのは、小学校の時に担任をして頂いた先生から依頼を受けて、小学校で講演を行ったことです。講演会は、「ゲストティーチャーの生き方から学ぶ」をテーマに行われたもので、私は今までの自分の人生のことをはじめ、挑戦したこととして、運転免許を取ったこと、今現在、全国大会へ向けて練習に励んでいることなどを話しました。
100人以上もいる小学生の前で自分の話をすることに、最初はどうなるのだろうと思っていましたが、小学生が真剣に話を聞いてたくさん質問してくれたこともあり、初めての場でも非常に楽しむことができました。多くの人を前に、自分らしさを出せたのは、大きな自信となりました。
このような挑戦の一つ一つが自分の財産として積み重なり、自信や力となって、全国大会でも結果を残せたのだと思います。
大会出場時はデザイン関係の部署でなかったので、会社の方は驚いていましたが、コロニー協会福祉工場では、初めての全国大会入賞だったので非常に喜んでくれました。家族や友人、応援してくれた方も本当に喜んでくれました。
また、大会にも付き添ってくれた母は、アドバイスや感想も率直に言ってくれますし、大会中も緊張しないように気遣ってくれました。母には一番支えてもらっているので、賞を届けられて良かったですし、少しは恩返しが出来たかな思っています。
全国大会出場時の山形県選手用ユニホームを着て、賞状とメダルを見せてくださいました。
障がいを持っている人の就職ガイダンスに参加し、ハローワークから紹介を受けました。パソコンもそんなに得意ではありませんでしたし、全く印刷業界のことも分からないまま働くことになりました。
ただ、偶然、職業訓練に通っていたころにイラストレーターやフォトショップのコンピューターソフトについて少し勉強をしていました。その時は、難しくて何の役に立つのだろうと思っていたのですが、その経験がこの会社に入ってから役に立ちました。
実は、大会後にチラシやハガキなどをデザインするチームに異動になり、基本から勉強している最中です。異動の打診があったときは、スピードも要求されるうえ仕事内容も難しくなるので迷いました。しかし、せっかく頂いたお話なので、挑戦してみようと思い異動を決意しました。
現在は、全国大会で使ったようなコンピューターソフトを使い、チラシ、パンフレット、ハガキ、リーフレット、名刺などを製作しています。
まだ異動して1ヶ月半ぐらいなのですが、初めて手掛けた仕事は、あるイベントに参加する作業所の「のぼり旗」の作成でした。お客様からは文字だけいただいて、あとは全て自分でデザインしました。出来上がったときは、嬉しくて、のぼり旗が実際に飾られているイベントに足を運んで、実物を確認しました。
また、全国大会へ向けた練習の時期から、駅など様々な場所に置いてあるチラシやポスターなど、日常で何気なく見落としているものを意識的に見るようになりました。今回ののぼり旗を作る時も、今まで見ていなかっただけで、身近な多くの場所にのぼり旗があって、周りに目を向ける必要があるなと感じました。
この仕事になったことで、自分の感性を自由に表現できるのでやりがいを感じますが、それには色んなものを見て、触れて、感じて、想像力を鍛えて感性を豊かにしておかなければなりません。
私はまだコンピューターソフトの操作方法や機能などを覚えている段階で、色の組み合わせによって活発にも落ち着いた印象にもなるというようなことを基礎から勉強中です。覚えなければいけないことが多くて大変な面もあります。チームのメンバーは全員学校でデザインの勉強を専門にしてきた人たちなので、メンバーに追いつけるよう一生懸命頑張りたいと思います。
早く仕事を覚え、自分自身を成長させて、私が異動してきて良かったと思われるような“なくてはならない存在”になりたいと思います。さまざまなデザインに触れながら、お客様に喜ばれる製品を作れるよう努力していきたいと思います。