みつわ会には平成13年から勤務。現在は事務部長として、法人全体の事務的なところから、人事、人材育成に取り組んでいる。
県では、「山形県障がい者雇用優良事業主認定制度」により、障がいのある方の働きやすい職場づくりに力を入れている企業を応援しています。今回の「今月のひと」では、様々な取り組みにより優良事業主に認定されている、鶴岡市の「医療法人社団みつわ会」の佐藤事務部長さんにお話を伺いました。これまでのご経験から、障がいのある方と働く際に意識されていること、また、介護業界のイメージを変える様々な試みについてお聞きしました。
医療法人社団みつわ会は平成4年7月に設立され、母体である「老人保健施設のぞみの園」を中心に、現在までグループホーム、診療所、居宅介護支援事業所、訪問介護サービス、有料老人ホーム、訪問リハビリテーションなど事業所ごとに利用者のニーズに合わせた支援を提供し、鶴岡市の地域ケアの中心的役割を担っている。今年の4月には、県内で初めて生活介護、児童発達支援、放課後デイサービス、療養通所介護の4つの機能を持つ障害者支援ホーム「のぞみの家」をオープンした。
今から26年前、当時の鶴岡市には老人保健施設がありませんでした。一般的に医療法人は医師が始めることが多いのですが、創設者は、医師ではありませんでした。しかし、「どうしてもこの鶴岡に老人保健施設が必要だ」と考え、その想いに賛同する2人の協力のもと、3人で作った法人、「3つの輪」の意味で『みつわ会』という名称で設立されました。
特色として、利用者とそのご家族の皆さんに楽しんでもらえるような、いろいろなイベントを企画しています。例えば、ご夫婦で利用している方に対して、手作りの結婚式(バウ・リニューアル)を施設内で行う企画です。
たまたま置いてあった結婚式場のチラシを見たスタッフが、ウェディングドレスを身にまとった花嫁さんがとても素敵で、「こういうドレスを利用者さんが着たらきっと喜ぶはず」と思ったことがきっかけです。ドレスの購入から、メイクやネイル、会場の設営、ウェディングケーキの準備まで、すべてスタッフで行いました。そのような企画を通し、スタッフは自分の仕事を通して利用者の方に喜んでもらえることの素晴らしさを再認識しているようです。
ミーティングを通した風通しの良い職場の雰囲気づくり
数字を見ることはもちろん、組織マネジメントや人材育成を一番の仕事にさせてもらっていて、年に数回『未来創造フォーラム』というものをやっています。これは、スタッフ全員が参加して「やれるかどうかわからないけれども、やったらおもしろいよね」というアイデアを出す内容のグループワークです。利用者の方に喜んでもらえることは何かを自らが考え、いろいろなことを提案してくれます。 もうひとつは「リーダーの育成」です。リーダーの仕事をしている人は、誰でも悩みがあるもの。日ごろの悩みを解決するための課題解決の考え方や、リーダーのあり方などを伝えながら育成していきます。研修の講師は私が勤めますが、ミーティング手法やマネジメント研修を受けて、持ち帰ったものを法人内に浸透させるというやり方をとっています。
風通しの良い、意見を言いやすい、提案しやすい、という雰囲気づくりを心掛けています。
ずっと事務の仕事に携わってきたので、直接利用者に介助して、援助できるスタッフたちはすごいと思っています。しかし、働いているスタッフは自分たちの価値に気づいていない。
この業界は、どちらかというとネガティブなことばかり報道される傾向があります。それならば、未来のある、楽しい業界なんだと自分たちでポジティブに情報発信しようと考え、ホームページの採用特設サイトも作りました。「頑張る人や支える人」を応援する役割だと考えています。
障がい者雇用を進めるきっかけ、取り組み内容を教えてください。
以前から身体障がいを持つ人を雇用していましたが、平成14年に鶴岡高等養護学校の職場実習を受入し、翌年に特別支援を受けている知的障がいを持っている卒業生を採用したことが本当の意味でのスタートです。その後も鶴岡高等養護学校の卒業生を6人ほど採用してきました。現在は2名の方が働いています。
就労サポート機関があるので、養護学校と連携をとりながら、サポートに入ってもらい、能力に合わせた業務内容や職場内での周知、障がい特性の理解など、さまざまな取り組みを行っています。障がい者カウンセラーやジョブコーチ制度も積極的に利用しています。
私の失敗談として、度重なる問題行動を起こしてしまうスタッフに、「他の人と同じように言えば分かるだろう」と、厳しく注意をしたことがありました。私が知的障がいの人、自閉症の人、その人その人の障がい特性を理解していないまま接してきたことにより、一番つらい思いをしていたのは、本人自身だったということに気がつきました。その時は本当に反省しました。高等養護学校の先生や、就労機関のサポートを受け「その人を変えようとするのではなく、自分が対応を変える、この人としっかりと向き合う」ことにより、やっと自分も楽になりました。
その経験から、まずは一番身近で働くスタッフたちにも障がい特性の理解をしてもらうために、最初は直接かかわる部署で、次に、全スタッフが集まるミーティングで、彼らと一緒に仕事をするためには、みんなの協力が必要だということを伝えました。その結果、スタッフが些細なことでも報告してくれるようになったり、問題が起きる前にサポートをしてくれたりと、大きな変化がありました。
家庭の支援なくして、障がい者雇用というものは継続できないと思います。その人には必ず良いところ、光るものがあります。課題だけでなくその部分を親御さんにもきちんと伝えること、過干渉にもその逆にもならないことが大切です。
トップダウンでやろうとしても、なかなかうまくいきません。その人の個性や障がいの特性、彼らにとって一度退職してしまうとその後の社会参加をすることが、どれだけ難しいことなのかを周りがよく理解する。受け入れるからには、細かいところまで一緒にやってできるようにしていくことが大事なところだと思います。そして、自分の仕事は人の役に立っているということを伝えてあげることも大事だと思います。
平成28年3月に認定を受けました。老人保健施設の全国大会で、障がい者雇用の取り組みを発表する機会もあり、こういった制度があるのであれば、みんながやってくれていることを何か形にしたい、職場の中だけではなく、外の人がきちんと評価をしてくれるということを、全員に知ってもらいたくて応募しました。
今後、介護業界は人材が不足していくと言われていますが、未来を作らないと若い人も入ってこないと思います。障がいを持っている人も輝いて働けて、スタッフが専門的業務に専念できる、そういったモデルケースでありたいと思います。 将来的には、障がいを持っている人も持っていない人も、介護の必要がある人もない人も、楽しんで活躍できる場を、地域の中に何かひとつ形づくることができればいいと思います。
「ありがとう」を言う仕事はありますが、「ありがとう」を言ってもらえる仕事は少ないと思います。この業界の素晴らしいところは、「誰かが喜んでくれる姿を、きちんと見られる仕事」だと思います。おじいちゃん、おばあちゃんに関わることが好きとか、困っている人を見て見ぬふりはできないとか、少しでもそういう経験があれば、ぜひこの業界に興味を持ってもらいたいです。