会社の概要について教えてください。
弊社は、東北に数少ない総合熱処理工場として創業58年、「鐵に魂を入れる」を理念に、熱い気持ちと冷静な判断で真摯に金属と向き合い、東北6県から西は中部地区までお客様へ高品質な製品をお届けしています。自動車、建設機械、ロボット、航空宇宙・防衛関連部品、半導体製造装置、生産設備等、幅広い分野の熱処理加工と金属製品の表面処理加工(黒染め)を行っています。
従業員教育に力を入れており、本人の希望をもとに外部講習や資格取得に積極的に取り組んでいます。金属熱処理技能士資格試験合格へ向けて、毎年社内勉強会を実施しています。
ISO9001、ISO14001、JISQ9100の認証を取得しております。また、現在の仙台工場が移転し、2023年夏には新仙台工場が稼働予定です。
ホームページに、「正社員全てが金属熱処理技能士の国家資格を有している。」とありますが、入社される方には熱処理分野が初めての方もいらっしゃるのでしょうか。
ほとんどが未経験で入社しています。何もわからないところからのスタートになります。会社に入ってから、社内勉強会などで、仕事しながら学んでいきます。
金属熱処理技能士の試験は、国家試験で毎年8月のお盆明けに、学科試験、実技試験が行われます。等級は3級、2級、1級ときて、特級が最上位になります。特級以外は受験する級に応じて、会社の中で指導的な立場にある者が講師になって、6月中旬頃から、8月の資格取得に向けて、勉強会を開催しています。
事務の方まで資格を取られているというのは素晴らしいですね。
金属熱処理の技能検定というと、現場担当の社員が取るものと思われがちですが、現場担当も管理担当も、分け隔てなく、弊社に正社員として入社した全員に「金属熱処理技能士の資格を取ってもらう。」という方針でやっています。
パートの方も資格を取ることで、全員が会社の業務を理解したうえで自分の業務に当たれますね。
総務課でパートで働く伊藤さんは、金属熱処理技能士1級を取得しています。伊藤さんから、「正社員だけじゃなくて私たちも資格を取りたい。」という話があり、それをきっかけにパートも含め、全社員に資格取得の意欲が広がっていきました。
女性の活躍推進や働き方改革に関連する取組みについて教えてください。
女性の活躍推進としては、今期から中西取締役が女性取締役として登用されています。また、社長の下にそれぞれの部門があり、リーダー、サブリーダーがいます。これまでは男性が占めていた職位ですが、今は、それぞれ能力を発揮できる女性社員も何名か登用されています。
働き方改革では、女性社員は、産前産後休暇、育児休暇を取っていますが、「女性だけでなく男性も、子育てに一緒に携わってほしい。」という社長の考えのもと、仕事と家庭の両立を図れるように、相談にのるなどしながら、男性社員も育休を必ず取得してもらうことを会社として推進しています。去年は、営業課で男性社員2人が育児休業を1か月ずつ取得しています。その際は、仕事の割り振りもお願いするなどしてみんなでカバーして対応しました。
男性の育児休暇制度導入当初は、2週間くらいの取得から始まりましたが、現在では1か月の取得となり、段階を踏んで今に至っています。
また、人は一人で仕事を抱え込むことが多くなるため、仕事と家庭の両立を進めることは、チームワークで仕事にあたることでもあります。お互いにフォローできる体制を作ることが結果的に生産性の向上に繋がります。育児のほか、これからは親の介護がある方が増え、配偶者に介護が必要となる可能性もあります。育児・介護に直面した際に「離職して専念する。」ではなく、働き続けられる会社と思ってほしいと考えています。
年休の取得促進も行っています。年5日間の有休取得義務化より前から、「ゆとり休暇」という名目で、有休を取得しやすい環境作りを進めていました。土日の休みとあわせて取得するなどして、リフレッシュにあててもらうためです。
また、家族の通院付添いや学校行事への参加など、半日や時間単位で休みたいという従業員の声を受け、一時間単位の時間休制度を導入しています。従業員にとっては非常に好評ですが、一方で管理面が煩雑となり、管理方法に苦労しました。今も勤怠システムを使って管理できないか試行錯誤を重ねています。
来客時のお茶出しの慣習を見直されたということですが、いかがですか。
来客時のお茶出しは女性従業員が行っていましたが、社長の発案で、数か月前にその慣習を見直し、対応担当者が行うルールにしました。以前は、急須を使ってお茶を出していたので、最初は慣れなかった社員もいました。今は、ペットボトルやブリックパックのお茶にして、誰でも簡単に対応できるように変えたので、特に混乱もないですね。
生産性の向上にも積極的に取り組んでおられます。
生産性向上に関しては、補助金などの後押しもあって、2年ぐらい前から生産管理システムの導入を進め、令和4年6月に本格稼働いたしました。
以前は、営業課と、検査を行う品質保証課、製造現場である生産技術課の3つの課に共通したシステムがなく、様々な書類を全て手書きでやっていました。
例えば、営業課では、製品ごとに、受注内容を手書きした現品票を作成し、その現品票を生産技術課に持っていくと、生産技術課では、処理に必要な事項を現品票に記入するとともに、同じ内容を作業記録という書類にも記入し、二重の手間がかかっていました。更に、その現品票は、生産技術課から検査を行う品質保証課に回されます。検査担当者は、現品票に検査の結果を記入して、それを基に熱処理成績表を打ち出すという作業がありましたが、現品票の転記ミスや手書きの文字が読めないといった問題が発生していました。このため、受注時に入力した内容が、最後に発行する納品書まで反映されるシステムを導入しました。
システムの導入にあたっては、既成のものがそのまま使えるわけではないので、弊社の工程に合った仕様にするのに時間がかかり、大変なところもありました。各部門から集まってもらい、問題を出し合いながら協議したり、セクションごとにシステム会社の人と話してもらったりしながら、システムを作り込みました。稼働後も、いろいろな問題が出てきましたが、月に1度はみんなで集まって、問題を共有しながら改善を図っているところです。
システム導入によって、手書きがなくなっただけではなく、進捗状況を机上で確認できるようになり、かなり効率的になったと思います。
※現品票
製品の処理条件、納期等を示した書類。
製品のレシピともいえるもの。
今後考えている取り組みについて教えてください。
現在、山形県企業振興公社の生産改善アドバイザーから指導を受け、1人当たりの労働生産性を上げる取り組みを部門を越えてすすめているところです。製造現場だけではなく事務担当の人も含め、弊社で働く人みんなが、付加価値の向上・労働生産性の向上を意識し、まずは、「伊藤熱処理として何ができるか、(定義みたいなもの)を考えてみよう。」と取り組みを始めたところです。
これまで、1人当たりの労働生産性の向上については、あまり考えたことがありませんでした。単価の見直しや経費削減など別の方向に目が向いていたのですが、自分たちの労働生産性を上げることによって、付加価値が増すということが目から鱗でした。労働生産性に関する意識レベルが低かったのではないかなと反省していて、今からしっかりと学んで、労働生産性を上げていきたいと思っているところです。そこがわかってくると従業員の働き方も違ってきますし、弊社の起爆剤になるのではないかと思います。
QCサークル活動にも一生懸命取り組んでいらっしゃいますね。
年に1回、11月が品質月間ということもあって、たいてい11月23日の勤労感謝の日に合わせて実施しています。10サークルを2つに分けて、それぞれのサークルが2年に1回、改善の取り組みを発表するということでやっています。職場での困りごとには気づきもありますので、いい方向に向っていると思います。
最優秀賞と優秀賞には、副賞がありますので、メンバーのモチベーションにもなっています。
最後に、ものづくり企業への就職を希望する女性たちへのメッセージをお願いします。
男性優位のイメージが強いと思いますが、熱処理は、金属組織の確認分析や、お客様の要望を受けて製品の処理条件を検討したり、機械操作したりするなど、頭脳と手先を使う仕事がたくさんあります。「女性だから、男性だから」ということではなく、しっかりした知識を持っている人が有利なのかなと思います。熱処理に限らず、ものづくりに終わりはありません。向き不向きではなく、興味と熱意を持って取り組み続けることで、仕事の方がこちらに向いてきます。そこに性別は関係ないと思います。
山形県産業賞(左)、労働衛生優良事業場(右)
取材:令和5年1月