やまがた子育て・介護応援いきいき企業
第43回 朝日金属工業株式会社

従業員数 52名(女性14名 男性38名)平成27年4月現在

◎「山形いきいき子育て応援企業」登録について

優秀(ダイヤモンド)企業登録 平成27年3月

〈経営理念〉
明日を創る技術こそ資本。

〈経営ビジョン〉
軽・薄・短・小にチャレンジ
小さいものは伸びる

〈ターゲット5〉
・より高い技術にチャレンジ
・より高い精度にチャレンジ
・より高い品質にチャレンジ
・より高い生産性にチャレンジ
・より高い価値にチャレンジ

◎長井市は、こんな街です。

山形県の南部に位置する長井市。現在、人口約28,000人・世帯数約9,700戸(平成27年2月末日現在)規模の街である。この街の歴史は、江戸時代・元禄(げんろく)年間(1688~1704年)頃、最上川舟運の最終港であったこともあり、米沢藩の外港として物資流通や商取引で栄えた商工業都市という歴史をもつ。現在でも続く製造業として長井紬が有名で、昭和に入ると東芝の長井工場の開場を皮切りに、弱電関係の工場の立地が相次ぎ、企業城下町といわれた。そして現在も、製造業は長井市の主要産業となっている。
今回訪れた『朝日金属工業株式会社』もまた、大手中心企業の海外シフト化やリーマンショックなど激動の時代を乗り越え、紆余曲折を経て存続してきた会社である。創業から55年のこの会社は、自分たちと街の将来を見据え、社長を筆頭に社員全員が楽しく、たくましく働いている企業だ。近年では、男性社員が育児休業を取得するなど様々な取り組みが地元や他企業から、その秘訣について注目を集めている。

◎『朝日金属工業株式会社』どんな会社?

晴れ渡る青空と白と黒のコントラストが美しい雄大な残雪の朝日連峰を背景に『朝日金属工業株式会社』の社屋がある。1960年創業、小物精密プレス部品・金型製造を行っている会社だ。現在の主力部品は、スマートフォンやタブレット端末などに用いられるコネクタ(電子回路や光通信において配線を接続するために用いられる部品や器具のこと)を製造。私たちが日頃使っているスマートフォンの一部がここで作られ、その端末を世界各国の人々が愛用している。そう考えると、さすがモノづくり王国山形、その技術力の高さと黒子として支える実直な姿勢に故郷山形をとても誇りに思える瞬間であり、『朝日金属工業株式会社』という会社をとても身近に感じることができる。

◎男性社員が40日間の育児休暇を取得

〈経営者から見る育児休業取得/代表取締役 横沢芳樹さん〉

男性社員が育児休業を取得するということは「首都圏の大企業の話であって、地方のしかも中小企業となれば、周囲の負担も大きく到底無理な話・・・」と、考える経営者や社員も少なくないだろう。しかし、従業員数52名の朝日金属工業株式会社は、男性社員の育児休業取得を実現、仕事と家庭の両立や男女ともに働きやすい職場づくりなどに会社一丸となって積極的に取り組んでいる。今から約4年前の男性社員育児休業取得について、当時の思いや状況を横沢社長はこう語る。
「従業員の皆さんは、『人材』ではなく『人財』なんですね。会社を存続させるための財産そのもの。我々の仕事は、機械化されているとは言っても、人の経験や知識、技量が必要です。どんな時も良い製品を作るには、やはり人の腕にかかっています。ですから、石井陽祐さんが40日間育児休業を取得する際も、初めてのことでしたので不安もありました。彼も主力社員ですから、現場を抜けたら一体どうなるのだろう、きちんと仕事は回るのだろうか。それに加え、仕事は日進月歩、毎日こなしている仕事だからこその感覚というものがあるので、一時、仕事から離れた後、無事に復帰ができるだろうか、そんな心配をしたものです」
様々な不安の中、男性社員育児休業取得に踏み切った理由について「育児休業の制度は元々あったものの、男性で取得した者はいなかったので、心配は色々ありましたが、少子高齢化や人口減少など世の中が変わってきていますから、みんなで子育てを支援しなくてはいけない、今の時代は男性も積極的に育児に参加しなくてはと思いました。それが、自分たちの将来へ繋がることにもなります。また石井さんの上司や同僚と良く話し合い、それをワーク・ライフ・バランス推進員の管理課の横山さんが色々と意見や方向性を取りまとめて私に報告してくれました」

◎男性社員が40日間の育児休暇を取得

〈育児休業取得者/業務課 石井陽祐さん〉
現在、3人の男の子の父親である石井陽祐さんは、今から約4年前に40日間の育児休業を取得した。当時、4歳の長男と2歳の二男と手のかかるわんぱく盛りのときに奥様が3人目のお子さんを妊娠、出産。
「最初に、共働きである自分たちは夫婦でよく話し合って、会社の上司に相談しました。そこから同僚の皆さんの理解と温かい応援を得て、育児休業を取得させていただきました」
長期間、会社を休むことについて「一旦、仕事から離れることで、経験を積んで培った手の感覚を忘れてしまうのではないか、無事復帰ができるか、そんな不安はありました。ただ、育児休業を取得したからには、育児や家事全般を全力でやろうと意気込んで望みました。今までは妻に頼りきりだった育児を経験して、その大変さが分りました。夜中に起きて、ミルクを与えるのも夫婦協力してやりましたが、大変でしたね。妻も私の育休取得を良かった、助かったと言っています」
育休から復帰したときの同僚の反応は「大変だったぞ」が第一声だったそうだ。石井さんの分の仕事を皆で協力してカバーしてきた40日間。「待ってたよ」「お帰り」「育児お疲れさま」そんな同僚たちの石井さん復帰への喜びが含まれた一言であったに違いない。「これから、育児休業を取得する男性社員がいたら、自分の経験をもとにサポートしていきたいと思います。自分が育休を取得して本当に良かったと思えるから」育休を機に育児に積極的に参加するようになった石井さんは、現在も育児を楽しみながら“イクメン”として日々奮闘中である。

【育児休業を取得した石井陽祐さん】

◎仕事と家庭の両立の支援

~育児休業、育児短時間勤務~
〈管理課 課長 横山誠さん〉
朝日金属工業株式会社では、社内のワーク・ライフ・バランス推進員の横山さんを中心に、従業員のワーク・ライフ・バランスに積極的に取り組んでいる。例えば、育児休業や育児短時間勤務については小学校入学前まで取得可能とするなど、法律で定める以上の制度を設けており、社員が育児休業などを取得しやすい環境を構築している。また、育児休業を取得しやすい環境づくりのため、管理職の研修も行っている。
「育児休業などの取得できる期間を、元々、社内制度にあった3歳までを小学校入学前までに期間を延長しました。その背景には、子どもが保育園に入園したけれど、ママがいないとグズって送迎バスに乗ることができず、送迎バスの時間が出社時間より遅いので会社を仕方なく休まなくてはならなくなる、そのような悩みを子育て世代の従業員から打ち明けられ、会社としてどうしたら辞めずに仕事と家庭を両立することができるかを考えました。当事者である従業員とその上司、そして同僚で色々意見交換をしながら、より良い方向性を導き出し、それを私が取りまとめて、社長へ色々打診させていただき、問題解決へと進めています。先程の子育て中の従業員は、現在は30分遅れての出勤や30分早く退社など育児時間短縮制度を利用して仕事と家庭の両立ができるようにしています」と横山さんは話す。

【社内ワーク・ライフ・バランス推進員の横山さん】

◎平均勤続年数が長い、その秘訣?

〈大嶌 恵さん/奥出美秋さん〉
朝日金属工業株式会社は、男性社員の平均勤続年数が19年、女性社員が17年と男女ともに平均勤続年数が長い会社である。30、40代の子育て真っ最中の大嶌さんと奥出さんにその秘訣を伺った。
子ども3人を育てる母親でもある大嶌さんは今年勤続17年目。「長くこの会社に勤めていられるのは、上司の理解と同僚の協力があってこそだと思います。子どもが急に熱を出して保育園から連絡があったときも、上司に相談して早退をさせていただいています。現場から急に抜ける訳ですから、同僚のサポートも有り難いです。また、他社で働く知人と話をしたときに休みはなかなか取れないという人も多く、恵まれた環境であることに感謝しています」
勤続19年目の奥出さんもまた「社員同士や上司とのコミュニケーションが取れているからだと思います。そして社内には“お互い様”という考えが定着しているのではないでしょうか。自分が困ったときには助けてもらい、だから他の人が困ったときには同じように助ける。また、有給休暇の取得のしやすさもあります。男性社員の育児参加への関心も高まり、学校行事への参加も多くなってきていると思います」
2年に1回の国内旅行(昨年は伊勢神宮へ)、花見やビアパーティ、芋煮会、1泊2日での忘年会など社内交流を図るイベントも行っている。

【大嶌 恵さん】
【奥出美秋さん】
【奥出さんと上司の業務課主任 牛澤直樹さん】

◎今後の取り組みと展望

〈代表取締役 横沢芳樹さん/管理課 課長 横山誠さん〉
子育て支援に対する今後の展望について横沢社長は「人財である従業員が長く働くことができる環境を整えるには会社としてどうしたら良いか。会社(仕事場)は一人ひとりの生活の場を支えているということ、それが家庭を支えることであり、子どもを産み育て、地域を活性化させることに繋がる。一人ひとりの働きの質を上げ、時間と制度を有効に使って戦力ある人財を育て確保していきたいですね。会社の存続こそが従業員にも地域にも重要なことだと思います」
横山さんは「今後は、女性従業員にも社外交流を積極的に行ってもらい、管理職登用も視野に入れていきたいです。子育てを経験しているからこそ、その人の立場に立ち、行動できる優しい女性従業員たち。製造業の女性営業というのも将来できたら、もっと会社も盛り上がっていくと思います」

 
2015年5月1日